老後を一人で暮らす準備はしていても、入院時の身元保証や亡くなったあとの手続きまでが一人では行えません。そして、「おひとりさま」が亡くなった場合、遺された財産は最終的に国庫へ帰属してしまいます。本記事では、兄以外に相続人となる家族がいない66歳女性の事例から、おひとりさまが元気なうちに決めておきたい「どこまで準備をするのか」「誰に何を託すか」について、弁護士の清水勇希氏が解説します。
「兄が先に亡くなれば相続人がいない…」おひとりさま66歳女性が抱える不安
「もし、自分より先に兄が亡くなったら、私の財産は国に渡るの……?」
マサコさん(仮名・66歳)は、終活を進めるなかで「相続」について気にかけていました。
現在、マサコさんの親族には兄がいます。しかし、もし兄が先に他界した場合、マサコさんには法律上の相続人(法定相続人)となる親族が誰もいなくなってしまうのです。
いとこなどに資産を託すことも頭をよぎりましたが、「自分のことで負担をかけるのは申し訳ない」という思いが消えないマサコさん。
そのような思いを抱えているなか、「おひとりさまの終活・身元保証関連の説明会」へ足を運びました。
おひとりさまの終活では、希望を書類に残すだけでなく、自分が動けなくなったときや亡くなったあとに誰が動くのかまで決めておく必要があります。
高齢者の約5人に1人が一人暮らし…「頼れる人がいない」問題が増加中
おひとりさまの終活は、個人だけの問題ではありません。
総務省の2020年国勢調査によると、65歳以上の一人暮らしは671万7,000人で、65歳以上人口の19.0%を占めます。また、国立社会保障・人口問題研究所は、単独世帯が一般世帯に占める割合について、2020年の38.0%から2050年には44.3%へ上昇すると推計しています。

図表1 おひとりさまを取り巻く2つのデータ(各出典をもとに著者が作成)
「親族がいること」と「実際に頼れること」は同じではありません。親族が遠方に住んでいる、同年代である、長く交流がないといった事情があれば、入院時の対応から葬儀・納骨、住居の明け渡しまで任せるのは難しい場合があります。
さらに、こうした支援が必要になる時期は予測できません。病気や転倒による突然の入院で、本人が十分に説明できないこともあります。亡くなったあとには、死亡届、葬儀、納骨、家財の処分、各種契約の解約が短期間に重なります。
頼みたい相手がいるなら、口約束で終わらせず、本人の希望と相手が担う範囲を具体的に共有しておく必要があります。
身寄りがない人の「相続」の注意点
配偶者、子や孫、父母や祖父母、兄弟姉妹やその子など、法律で定められた相続人がいない場合、利害関係人などの申立てにより、家庭裁判所が相続財産清算人を選任します。
清算人が債務の支払いなどを行い、残った財産は国庫に帰属します。いとこや親しい友人へ財産を残したいと思っていても、自動的に渡るわけではありません。
【弁護士の助言】おひとりさまの終活は「生前・死後・財産」の3つに分けて考える
おひとりさまが準備すべきことは、大きく分けて次の3つです。
1.生前の支援
入院・施設入居時の身元保証、緊急連絡先、通院や手続きの付き添い、判断能力が低下した場合の財産管理などについて、頼れる人や事業者を決めます。特に、おひとりさま・おふたりさまは、「入院手続き・施設入所の際、保証人がいない」といった悩みを抱えています。
現状、老人ホームの90%以上が、入所の際に保証人を求めています。さらに、患者の入院時に身元保証人を求める病院は60%を超えており、なかでもベッド数20床以上の病院では90%以上に上ります。
このように、保証人を立てることができなければ、自分が希望する病院に入院できなかったり、施設に入所できなかったりする問題が生じます。特に、子がいない高齢者の場合、頼ることができる家族がおらず、保証人を確保できない事態にも陥りかねません。
2.死後の手続き
葬儀や納骨、住居の明け渡し、公共料金の解約、関係者への連絡などは、遺言に希望を書いただけでは、実行する人や権限まで確保できるとは限りません。希望する内容と費用を整理し、死後事務委任契約などによって担い手を定めます。
3.財産の行き先
誰に何を残すかを遺言書に記し、必要に応じて遺言執行者も指定します。ただし、遺言には法律上の要件があるため、遺言を作成するときは専門家へ確認すると安心です。
総額230万円をかけて得た「老後の安心」
マサコさんは難しい契約内容について何度も質問し、一つずつ納得したうえで、終身サポート(身元保証)事業者と契約を結びました。
マサコさんが依頼した事業者の費用は、以下のとおりです。
【生前の支援(身元保証)】
入会金(身元引受・連帯保証料のサービス費用):66万円
月額の管理事務手数料:5,500円
【遺言の作成】
弁護士への依頼・作成費用:44万円
【死後の手続き(死後事務)】
死後事務の費用:44万円
死後事務委任の預託金:120万円
※身元保証や死後事務の料金・預託金は、事業者や支援内容によって異なります。
預託金は事業者の報酬ではなく、葬式費用・遺品整理費用などの実費にあたるものです。預託金の平均は約100万円ですが、葬儀・納骨の希望や残置物処理費用の見積額などによって変動します。
また、財産の行き先については「自分が兄より先に亡くなった場合には、兄に遺産の全部を相続させる。もし自分より先に兄が亡くなった場合には、いとこに遺産の一部を相続させ、残りは動物愛護団体に寄付する」旨を記載した遺言を作成しました。
初期費用として合計約230万円を支払うことになりましたが、すべての手続きを終えたマサコさんは「これで安心して、最期を迎えることができます」と穏やかに語りました。
終活は、死後の希望を書き残すだけの作業ではありません。「そのとき、誰が実行するのか」まで決めて、初めて現実に動く備えになります。意思を伝えられる元気なうちに、一つずつ準備を始めていきましょう。
清水 勇希
株式会社あかり保証代表取締役/弁護士法人リット法律事務所弁護士

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