補助金の分だけガソリン価格が下がっているわけではない(イメージ)
イラン情勢の緊迫化に伴う原油価格の高騰で、国内のガソリン価格も急上昇している。これを受けて政府は、昨年末の暫定税率廃止で終了したガソリン補助金を復活させたが、はたして家計負担を軽減する効果はどれほどのものか。ガソリン減税に舵を切ることなく、補助金にこだわる政策のおかしさについて、イトモス研究所所長・小倉健一氏が解き明かす。
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イラン情勢の緊迫化に伴う原油価格の急騰を受け、政府は3月19日より「燃料油価格激変緩和対策事業」を緊急再開した。初週の補助金支給単価は、1リットルあたり「30.2円」に設定された。この巨額の税金投入により、史上最高値圏にあった190.8円の全国平均小売価格は、政府目標である170円程度へと速やかに引き下げられるはずであった。むしろ、1リットルあたり30円の税金を使ったのだから、本来であれば160.8円になっていないとおかしいはずだ。
しかし、資源エネルギー庁が発表した翌週の全国平均価格は177.7円。値下がり幅はわずか「13.1円」にとどまった。ガソリン減税であれば税率の変更だから即座に店頭価格へ下落が反映されるのに、補助金の場合はガソリンスタンドがすでに仕入れた地下タンクの在庫の入れ替わりを待つ必要があるため、どうしても効果が遅くなるという声もあるのだが……いずれにしろ、補助金を出すくらいなら減税すべきだろう。
もちろん、これからタイムラグを経てさらに補助金の効果が出てくる可能性がないわけではないが、コロナ禍にも起きた同様の現象(補助金の額と比較して消費者は割高に買わされた=ここでは「中抜き」と呼称)を振り返ると、またしても「中抜き」が起きていると言える。30.2円の補助金を出しながら、消費者が享受できた値下げ幅はその半分にも満たない。残りの17.1円は一体どこへ消えたのか。
補助金全額が価格抑制に反映されない現実
日本のガソリン補助金制度の最大の問題は、補助金が消費者や小売業者(ガソリンスタンド)ではなく、ENEOSや出光興産といった「石油元売り企業」の川上部門に直接支給される点にある。政府は「元売りが卸価格を30.2円引き下げれば、市場競争を通じて小売価格も同額下がる」という前提に立っている。
しかし、現実の市場はそのような純粋な波及を見せない。関東財務局が155のガソリンスタンド事業者を対象に行ったヒアリングでも、「補助金全額が価格抑制に反映されている」と回答したのはわずか45.2%であった(別表参照)。
補助金全額が価格抑制に反映されているわけではない(関東財務局の「令和4年度予算執行調査の調査結果の概要について(10月公表分)」より)
元売り企業は寡占状態にあり、強力な価格決定権を持つ。この元売りの寡占状態をつくったのが、宮沢洋一・経産大臣(当時)なのであるが、責任など微塵も感じないのだろう。ガソリン減税を頑なに拒否し、ガソリン補助金にこだわり続けたのは、まだ昨年のことだ。
補助金分を卸価格に全額反映させず、一部を自社の在庫評価益の補填や利益の積み増しに留保したとしても、外部からそれを検証・是正する強制力は働かない。今回の「30.2円投入で13.1円の値下げ」という事象は、まさにこの「中抜き(価格転嫁不足)」の歴史が再び繰り返されている可能性を強く示唆している。
こうした実態に対し、専門家からも厳しい批判が上がっている。エネルギー経済学を専門とする桃山学院大学の小嶌正稔教授は、毎日新聞(2026年3月19日付)の取材に対して、現行の補助金政策を「政府がガソリン価格の水準を決めるなど、価格を線引きしてはいけない」「財源をいくら使うか分からない政策は、稚拙で無責任だ」と断じている。
自由経済において、価格の高騰は決して単なる「悪」ではない。それは消費者に対して「需要の抑制(ガソリンの節約)」を促す、極めて重要な市場からの「シグナル」である。政府が巨額の税金を投じて人為的に170円という価格キャップ(上限)を設ける行為は、このシグナルをかき消し、本来起こるべきマクロ経済の構造転換を阻害する。
諸外国の危機対応を見れば日本の非合理性は一目瞭然
日本がいかに特異で非合理な政策に固執しているかは、他国の危機対応を見れば一目瞭然である。
イラン危機に直面した欧州諸国は、市場を歪める不透明な企業向け補助金ではなく、「税の減免」を選択した。スペインはエネルギー全般の付加価値税(VAT)を21%から10%へ引き下げ、アイルランドも物品税を直接減税している。減税は、市場の価格決定メカニズムを維持したまま、消費者へ確実に恩恵を届けることができる極めて透明性の高い手法である。
さらに、国際エネルギー機関(IEA)加盟国は過去最大規模となる合計4億バレルの戦略石油備蓄の放出を実施し、物理的な供給不足の解消に動いている。また、一部のアジア諸国では在宅勤務の推奨など、価格シグナルを活かした需要抑制策を政策の柱に据えている。
対照的に日本は、透明性の高い「ガソリン減税」というカードを切りたがらず、効果測定すら不可能な元売りへの青天井の補助金に固執している。「30.2円を出して13.1円しか下がらない」という非効率を放置したまま、既存の利権構造である石油業界に巨額の公金を流し続ける様は、経済合理性の観点から見て到底正当化できるものではない。
ガソリン価格の高騰による国民生活への打撃を緩和する必要があるならば、採るべき手段は一つである。不透明な「中抜き」の温床となる元売りへの補助金を即刻停止し、市場価格と連動する「減税」へと政策を転換することだ。
市場経済の原則を無視したバラマキは、最終的に増税や国債増発という形で国民のツケとなる。30.2円と13.1円の間に横たわる“17.1円の闇”を直視し、経済合理性に基づいた政策の再構築が急務であろう。
【プロフィール】
小倉健一(おぐら・けんいち)/イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立して現職。



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