2026年7月31日に帝国データバンクが公表した「食品主要195社 価格改定動向調査(2026年8月)」によると、8月の飲食料品値上げは2311品目に上りました。
さらに2026年通年(1~11月判明分)の値上げ総数はすでに1万8347品目に達し、5年連続で年間1万品目を突破するなど、深刻な物価高とやむを得ない夏休みの出費増が家計を直撃しています。
世間では夏のボーナス増額が話題ですが、その恩恵を直接受けにくいフリーランスや個人事業主の皆さんにとっては、物価高への不安はより切実なものでしょう。
厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査」によれば、公的年金を受給する高齢者世帯の41.3%が「年金のみ」で生活しています。しかし、国民年金だけを受け取る場合、満額でも月額7万608円。
男女全体の平均では月5万9310円にとどまり、この金額だけでインフレ下の老後を乗り切るのは容易ではありません。
本記事では、厚生年金や退職金に頼れないフリーランスが、30~40歳代のうちから賢く「自分年金」を育てていくための3つの「公的ルート」と、最新の法改正情報をわかりやすく解説します。
1. この記事の3つのポイント
2. 会社員とフリーランスでは老後の“土台”が大きく違う
フリーランスは自由な働き方が魅力ですが、その一方で老後や万が一への備えは会社員とは大きく異なります。
まずは公的制度の違いを知ることが、将来の資産形成の第一歩になります。
2.1 会社員とフリーランスは「加入する年金制度」が違う
出所:日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」をもとにLIMO編集部作成
日本の公的年金は「2階建て」の仕組みです。会社員や公務員は、
の両方に加入します。
一方、フリーランスや自営業者の多くは、
となります。
つまり、会社員は国民年金に加えて厚生年金が上乗せされますが、フリーランスは原則として国民年金のみです。老後の年金額に差が生まれやすい理由は、この制度の違いにあります。
2.2 フリーランスにとって「ないもの」は年金だけではない
実は、会社員とフリーランスの差は年金だけではありません。
会社員には、勤務先によっては退職金制度があります。また、退職した際には雇用保険(失業給付)の対象となる場合があり、病気やケガで働けなくなった場合には健康保険から傷病手当金が支給されるケースもあります。
一方、フリーランスは原則として、
という状況です。仕事が途切れれば収入も止まり、病気で働けなくなっても生活費を自分で用意しなければなりません。
2.3 「年金はみんな同じ」ではなかった
フリーランスとして働く知人と話していると、「年金はみんな同じくらいもらえると思っていた」という人が意外に少なくありません。
しかし制度を調べてみると、紹介してきたように
「厚生年金がない、退職金もない、失業しても失業給付はない、病気で働けなくなっても傷病手当金は原則受けられない」
という現実を知り、「もっと早く知っていれば、30代のうちから備えていた」という声も聞きます。
自由な働き方には大きな魅力がありますが、その自由と引き換えに、自分で備えなければならない部分も少なくありません。
2.4 だから30~40歳代からの備えが重要になる
会社員は厚生年金や退職金などが老後資金の土台になりますが、フリーランスはその土台を自分で作る必要があります。
だからこそ、
といった制度を早いうちから活用することが重要です。
制度の違いを知ることは、不安を大きくするためではなく、「何を準備すればよいか」を明確にするための第一歩と言えるでしょう。
3. 平均所得と中央値のギャップから見える家計の実態
老後資金など貯蓄を増やすための元手となるのが「所得」です。
しかし、家計の実態を正しく理解するには、「平均」と「中央値」の違いを知っておくことが欠かせません。
所得金額階級別世帯数の相対度数分布2/4
出所:厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」
同調査によると、全世帯の1世帯当たり平均所得金額は575.2万円ですが、所得を低い順に並べた際にちょうど真ん中に位置する「中央値」は451万円となっています。
実際には、平均所得金額を下回る世帯の割合は61.5%にのぼり、一部の高所得世帯が全体の平均を大きく押し上げていることが分かります。
「平均所得は約575万円」と聞くと不安になるかもしれませんが、多くの世帯の実感に近いのは、平均より約120万円低い451万円(中央値)の方です。
まずは周囲の平均額と比較して焦るのではなく、自分の収入や家計に合った無理のない資産形成を始めることが大切です。
4. 筆者からのコメント

統計データにおける「平均値」と「中央値」の大きな乖離は、個人の生き方や働き方の多様化を示しています。
将来のマネープランを立てる第一歩は、自分自身の正確な「未来の数字」を知ることです。
実は、毎年の誕生月に届く「ねんきん定期便」は、50歳を境に記載ルールが大きく変わるのをご存じでしょうか。
50歳未満に届くハガキには「これまでの加入実績に応じた年金額(今受給した場合の年金額)」が載っていますが、50歳以上になると「現在のペースで60歳まで働き続けた場合の見込額」が記載されるため、よりリアルな将来設計が描けるようになります。
若いうちからねんきんネット等を併用して自分の「現在地」と「見込額」を把握し、早めの備えに繋げることが極めて有効です。
5. 付加保険料(付加年金制度)で年金を上乗せする方法
フリーランスが着実に「自分年金」を積み立てられる、3つの心強い公的制度と、それぞれの仕組みについて見ていきましょう。
5.1 付加保険料とは
国民年金付加年金制度3/4
国民年金第1号被保険者(フリーランスや自営業者など)は、毎月の国民年金保険料に月額400円の「付加保険料」をプラスして納めることができます。
これにより、将来受け取る老齢年金に、一生涯「200円×付加保険料納付月数」の付加年金が加算されて支給されます。
5.2 【例:20~60歳の40年間納めた場合】
毎年受け取る年金額が9万6000円増える計算になります。この制度の大きなメリットは、付加年金を2年間受け取れば、支払った保険料の元が取れることです。
その後は生涯にわたって増額分を受け取れるため、費用対効果の高い制度といえるでしょう。
※「第1号被保険者」…日本に住んでいる20歳以上60歳未満の自営業者(フリーランス)や農業・漁業者、学生や無職の方、その配偶者の方のこと。厚生年金保険や共済組合等に加入している方は除きます。
※「任意加入被保険者」…保険料を納める期間や加入者である期間が短いなどの理由から、60歳以降も国民年金に任意で加入する方のこと。
6. 国民年金基金を活用して将来の年金を増やす
付加保険料と同様に、フリーランス(国民年金第1号被保険者など)が利用できる制度が「国民年金基金」です。
これは、厚生年金に加入していない自営業者などが、国民年金(老齢基礎年金)に上乗せして老後資金を準備できる公的な年金制度です。
基本は65歳から生涯受け取れる終身年金となるため、長い老後に備えやすい点が特徴です。
また、万が一早く亡くなった場合でも、遺族一時金が支給される仕組みがあり、掛け捨てにならない点も安心材料です。
なお、掛金の上限は現在月額6万8000円(iDeCoと合算)となっていますが、法改正により2026年12月分からは上限が月額7万5000円(年額90万円)に引き上げられる予定です。
ご自身の予算に合わせて、口数単位で掛金を調整しながら無理なく積み立てられるのも魅力です。
6.1 【国民年金基金の特徴】
ただし、国民年金基金は付加年金の役割も兼ねているため、付加年金との併用はできません。
また、一度加入すると自己都合による任意脱退や中途解約はできない点にも注意が必要です。
7. 「iDeCo(個人型確定拠出年金)」で”自分年金”を準備するメリットとは
「iDeCo」は、自分で老後資金を積み立てる私的年金制度です。最大の魅力は、次の3つの税制優遇にあります。特に確定申告を行うフリーランスにとっては、掛金が全額所得控除になる点が大きなメリットです。
7.1 【iDeCoの3つの税制優遇】
メリットが多い一方で、「原則60歳まで引き出せない」「始める年齢が遅いと運用期間が短くなる」といった注意点もあります。
だからこそ、長期間運用できる30歳代・40歳代のうちに始めることが大切です。
フリーランスにとって心強い制度が、「付加保険料」「国民年金基金」「iDeCo」の3つです。
なかでもiDeCoは、掛金が全額所得控除となるため、毎年の税負担を軽減しながら老後資金を積み立てられる制度です。
節税メリットを受けやすいフリーランスだからこそ、早めに活用したい仕組みといえるでしょう。
8. 国民年金基金とiDeCoの違いをわかりやすく比較
国民年金に上乗せして老後資金を準備できる制度として、「国民年金基金」と「iDeCo」があります。
どちらを選ぶべきか迷う方も多いでしょう。それぞれの特徴を整理してみます。
8.1 国民年金基金
【ポイント】
8.2 iDeCo
【ポイント】
なお、フリーランス(第1号被保険者)の場合は、国民年金基金とiDeCoの併用が可能です。ただし、両制度を合わせた掛金の上限は年額81万6000円(月額6万8000円)となっています。
9. 【コラム】半数以上の高齢者が「生活は苦しい」と感じる背景
4/4
厚生労働省の「2025(令和7)年 国民生活基礎調査」で高齢者世帯の暮らし向きを見ると、厳しい現実が浮かび上がります。
「大変苦しい」(21.0%)と「やや苦しい」(31.1%)を合わせると52.1%となり、半数を超える高齢者世帯が生活に経済的な厳しさを感じています。
一方、「ゆとりがある」と答えた世帯は合計でも5.4%にとどまり、経済的な余裕を感じている世帯はごく少数です。
物価高が続くなか、会社員より年金の上乗せが少ないフリーランスほど、老後の家計への影響は大きくなりやすいといえるでしょう。
10. さいごに
高齢者世帯の半数以上が「生活が苦しい」と感じている今、国民年金だけでゆとりある老後を送ることは容易ではありません。
特に、会社員のような厚生年金や退職金がないフリーランスにとって、将来を守るためには現役のうちから備えることが重要です。
65歳はまだ先のように感じるかもしれません。しかし、資産形成において最大の味方になるのは「時間」です。
インフレによって預貯金の価値が目減りする可能性もあるなか、「付加年金」で着実に増やす、「国民年金基金」で終身の収入を確保する、「iDeCo」の税制優遇を活用して資産形成を進めるなど、自分に合った方法で”自分年金”づくりを始めることが大切です。
高齢者世帯の半数以上が生活の苦しさを感じている今、公的年金だけに頼る老後は決して安心とはいえません。
インフレが続くなか、今回紹介した制度を活用して「自分年金」を育てていくことは、将来への大きな備えになります。
まずは無理のない金額から始めてみましょう。自由な働き方を長く続けていくためにも、今日からできる備えを少しずつ積み重ねていくことが大切です。
11. 筆者からのコメント

長寿化が進むなかで、老後の暮らしを守るための強力な戦略となるのが、高齢期も無理のない範囲で就労を継続するアプローチです。
実は、働きながら厚生年金を受け取る際の支給停止基準(在職老齢年金)は、2026年度(令和8年度)から月額65万円へと大幅に引き上げられました。
これにより、現役並みに稼いでも年金がカットされにくくなり、生涯働くことの経済的メリットは飛躍的に高まっています。
「就労収入(Work)」で貯蓄の取り崩しを遅らせながら、「公的年金(Pension)」と「私的年金(Private pension)」の併給で資産寿命を最大限に延伸する「WPP理論(WPP戦略)」は、現代の生活防衛における非常に効果的な手法です。
若いうちから正しい仕組みを理解し、暮らしを守るセーフティネットを組み立てていきたいものです。
参考資料
著者
二種外務員資格(証券外務員二種)記者/編集者/校閲者/
【保有資格】
ニ種外務員資格(証券外務員二種)・相続診断士・認知症介助士・終活ガイド資格1級保有。
【経歴】
二種外務員資格や相続診断士などの資格を保有し、「お金とくらし」にまつわる情報を専門的かつ丁寧に発信する金融メディア編集者・ライター。
早稲田大学第一文学部史学科卒。人文・社会系一般書籍、中学・高校社会科教材、就職試験問題の制作関連業務で15年以上の経験を持つ。また、大手人材派遣会社における採用管理業務などの実務経験もある。
現在は株式会社モニクルリサーチが運営する『くらしとお金の経済メディア~LIMO(リーモ)~』において、金融系メディアの編集者兼執筆者として、コンテンツ制作や編集を担当。
総務省「家計調査」・厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」・J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査」などの一次資料に基づくデータ記事の執筆に強み。
専門家と実務家が発信する金融経済ニュースサイト『LIMO&ファイナンス』でも記事執筆をおこなう。紙媒体での経験に加え、家族の介護を通じて得た知見を生かしながら、「お金とくらし」にまつわる情報を丁寧に発信している。(2026年7月9日更新)






コメント