
40代、50代は、健診をしっかり受け「いまの自分の腎機能がどの程度のレベルにあるのか」をしっかり把握しておくようにしてください(写真:genzoh/PIXTA)
昔といまを比べると、腎臓病の常識は大きく変わりました。たとえば、以前は「腎臓が弱い人は運動なんかしないで安静にしているほうがいい」「腎臓病になったら非常に厳しい食事制限に耐えなくてはならない」「腎臓病はいったん悪くしたらよくならない」といったことが当たり前とされていました。
しかし、これらはすべてウソ。いまは腎臓病の人も適度な運動をするほうがいいとされていますし、食事もちょっとした工夫で普通の人と変わらないものが食べられるようになっています。もちろん「腎臓病はよくならない」というのも誤りで、「腎臓リハビリ」というメソッドを実行すれば、着実に進行を抑えたり病状を回復させたりできるようになっているのです。
この「腎臓リハビリ」のメソッドの提唱者として、従来の腎臓治療の“誤った常識”を大きく変えてきたのが上月正博・東北大学名誉教授。上月教授は、新著『腎臓大復活』の中で、腎機能を強化して人生をよみがえらせていくためのノウハウを惜しみなく紹介しています。
以下では、その上月教授が「腎臓寿命を延ばすための年代別ケア」について解説します。
腎臓は機能低下していても気づきにくい沈黙の臓器
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腎臓は「沈黙の臓器」であり、腎機能低下が進み始めていたとしても初期段階ではほとんど症状らしい症状が現われません。
そのため、知らず知らずのうちに進行してしまうケースが目立ちます。
40代、50代の働き盛りで、まったく何の不調も感じていなかったような人が、健診でひっかかってちゃんと検査をしたところ、すでに慢性腎臓病が進んでいるのが判明したといったケースも決してめずらしくはないのです。
45歳以上の1/4は「慢性腎臓病予備群」になっている!
自治医科大学の黒尾誠教授は、45歳以上の健康な男女約300人を対象に血液検査を行って、腎機能低下の指標となる「FGF23」というホルモンの量を計測しました。FGF23はリンの摂取量が増えると警告信号のように分泌されるホルモンで、この値が異常ラインを超えると、5年後に腎不全になる確率が高まるとされているのです。
すると、なんと300人の被験者のうちの4分の1もの人が異常ラインを超えているという結果が出ました。被験者は全員自分の健康に自信を持っている人ばかりだったのに、4分の1の人の腎機能はすでに「慢性腎臓病予備群」というレベルのマズイ状態にまで低下していたというわけですね。
ですから、40代、50代の方は決して油断はできません。この研究で明らかになったように、「自分は健康に何の問題もない」と自負している人でも、ちゃんと調べてみたら「腎機能の低下がけっこう進んでいた」というケースが多いのです。ましてや、40代、50代でメタボや肥満、高血圧、糖尿病などがある人であれば、たとえ医師からは腎臓に関して何も指摘されていなかったにしても 「すでに腎機能低下はだいぶ進んできている」 と考えたほうがいいでしょう。
働き盛りの40代、50代の時期は、仕事が忙しく、ストレスも多く、何かと健康を崩しがちな時期です。すでにさまざまな生活習慣病を背負ってしまっている人も少なくないでしょう。
しかし、その割に自分の健康コンディションの悪化をあまり深刻に受け止めていない人が多いのです。忙しいのを理由に健康診断をすっぽかしていたり、健診で再検査や要治療の結果が出ているのに受診を先延ばしにしていたり……。みなさんの中にも心当たりがある方がいらっしゃるかもしれません。
でも、こと腎臓に関しては、そういう 「深刻に受け止めない態度」を続けていると、人生を狂わせる事態につながりかねないと肝に銘じておくべきでしょう。実際に、健診や再検査を怠っているうちに腎機能低下を大きく進ませてしまい、気づいたときには人工透析を避けられない状態だったというケースもあるのです。
健康診断の「eGFR」の数値に気を付ける
ですから、40代、50代は、健診をしっかり受けるのはもちろん、健診の結果表からeGFRを算出して「いまの自分の腎機能がどの程度のレベルにあるのか」をしっかり把握しておくようにしてください。また、再検査や要治療となったら3カ月以内に受診することをおすすめします。1年後などに時期を引き延ばしていると、その間に腎機能低下が進んでしまう場合も少なくありません。
そして、もし慢性腎臓病の診断が下ってしまったなら、速やかに治療に移行して、なおかつ「腎臓リハビリ」をスタートするようにしてください。別記事の運動療法や食事療法を参考にケアをしていけば腎機能の改善や回復もグッと早まるはずです。
とにかく、40代、50代になったら、程度の差はあれ誰しも腎機能が落ちてきているのは間違いありません。そして、早期や中期の段階のうちにしっかりと手を打っておかないと、60代になって病状が進んでからだと復活させるのがかなり厳しくなってくる場合が多いのです。
だから、この年代のみなさんは対処を決して後回しにすることなく、危機感を持って自分の腎臓と向き合っていってください。きっと、そういう姿勢をしっかりとれるかどうかで、みなさんの老後の人生は大きく違ってくるでしょう。言い換えれば、40代、50代の時期が、これから先の人生で腎臓寿命を延ばしていけるかどうかのカギになると言ってもいいのかもしれません。
腎臓のネフロンは60代になると20代のときの半分程度に減少するとされています。
これは、それだけ腎機能低下が進んでいるということに他なりません。
60代の腎臓ケアをどうするか
実際、慢性腎臓病の診断を下される人は、60代半ばあたりから目立って増えてくるようになります。ですから、60代を過ぎたなら、もう誰しも慢性腎臓病に片足を突っ込んでいるようなものと思っておくほうがいいのかもしれません。
もっとも、60代は腎機能の衰え具合に差がつく時期でもあります。腎臓が急速に弱ってどんどん機能不全に陥っていく人と、そんなに弱ることなく機能を保っていける人とでかなりの開きが出やすいんですね。
これはすなわち、腎機能低下のスロープの傾斜に違いが生じるということ。
普段、運動や食事に何の注意も払ってこなかった人は急勾配の坂道を転がり落ちていってしまいかねないのですが、その一方、運動や食事に気をつけて腎臓をケアした人はゆるやかな勾配の坂道をゆっくり進んでいけることになるわけです。
それにしても、いったいどうして落ち方に差がついてしまうのか。いろいろな要因が考えられますが、私はいちばん大きな要因は 「体を動かしているかどうかの差」 ではないかと見ています。
60代は、定年、親の介護、子どもの独立などで日々の生活パターンが大きく変わる時期です。とりわけ、定年を迎えると、それを機に日々の身体活動度がグッと落ちてしまう人が少なくありません。
なにしろ、それまで何十年と通い続けた会社に行かなくてもよくなるわけで、通勤がなくなるのはもちろん、会社関係の人とのつき合いもぷっつり途絶えてしまうことになります。そうすると、家に引きこもったり、外出が極端に減ったりするようになり、運動不足から筋肉量を落としてしまいやすいのです。なかには、運動能力がてきめんに低下してしまう人も少なくありません。
つまり、このように「運動をしない生活」「活動度の低い生活」が定着してしまうと、急勾配の坂道を転がり落ちるように腎機能低下が進んでしまうようになるのです。
一方、同じ60代でもウォーキングや筋トレなどの運動を習慣にしていたり、積極的に外出して幅広く活動していたりする人は、腎機能をキープしつつゆるやかな勾配の坂道を歩いていけるというわけですね。
なお、私は腎臓寿命を長くしていけるかどうかは、「60代で決まる」と言っても過言ではないと思っています。
60代の習慣が70代以降に効いてくる
もっと言えば「60代で適度な運動を習慣づけているかどうかで決まる」ということ。
60代であれば、「まだ十分体が動く」という人が多いのですが、これが70代、80代になると思うように体が動かなくなる人が増えてきます。そして、60代でろくに体を動かさないような生活をしていると、70代以降、身体機能の低下や腎機能の低下がスピードアップしてしまい、そのままずるずると透析生活に移行していってしまうケースがたいへん多いのです。要するに、「体が動く60代のうちに運動を習慣づけておかないと、70代以降、ゆくゆく困ったことになりますよ」 というわけですね。
また、70代になると筋肉量の低下ペースも増すため、何もしていないとサルコペニアやフレイルが進んでしまいかねません。そうなったら、透析生活どころか、寝たきり生活も秒読みになってしまいます。
だから、70代以降、そうした悲惨な状況に陥るのを避けたいのなら、やはり60代のうちにしっかり体を動かしておいて、筋肉量や体力を「貯金」のように貯めておくほうがいいのです。
私は、腎機能の低下状況がどういうレベルであれ、60代になったなら「腎臓リハビリ」を実践に移すことをおすすめしています。ここで踏ん張って腎臓を守る運動や食事を習慣づけてしまえば、先々の腎臓寿命はもちろん、健康寿命も大きく違ってくるはずです。ぜひみなさん、60代というターニングポイントでつけるべき習慣を身につけて、人生の終盤を明るく照らしていくようにしてください。
上月 正博 東北大学名誉教授、山形県立保健医療大学理事長・学長



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