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ゾッとする…食料品の消費税1%を喜ぶ人が知らない「これから日本で起きること」 Photo:PIXTA
食料品の消費税を1%に減税する閣議決定が波紋を広げている。10兆円もの減収分を穴埋めする財源が定まらず、引き下げの費用対効果も不透明だ。もともと高市政権は財政悪化、円安への配慮があまり見られない。日本は今後、国債発行に頼った景気刺激策、社会保障運営を修正すべく、高齢者の負担増、消費税率の引き上げなどが必要になる可能性は高いだろう。現政権は、それを意図的に先送りしているように見える。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
食料品の消費税を1%に減税「費用対効果」は本当にあるのか?
高市早苗首相は、2027年4月から2年間、食料品の消費税率を1%に引き下げると表明し閣議決定した。現在、わが国の消費税率は10%だが、主に飲食料品(酒類除く)と定期購読新聞の消費税は軽減税率(8%)を適用している。消費税は主に社会保障の重要な財源だ。
首相は今回の引き下げで、国民の生活負担がかなり低下すると考えているようだ。ただ、その「費用体効果」については経済の専門家の間でも意見が分かれる。
エネルギーをはじめ企業活動のコストが上昇する中、どれほど物価上昇を抑えられるか不透明な部分もある。しかも、期間は2年と限定されている。私たちの暮らしは、それほど楽になりそうもないとの見方もある。
それに加えて財政の悪化が懸念される。今回の表明では、財源は明確ではない。首相は、食料品の消費税率を1%に引き下げた後、中低所得者へ給付を行い、実質ゼロを実現する考えだ。必要な財源は年5兆円、2年間で10兆円規模になる。それをどこから捻出するかはっきりしない。
財源として首相は「外為特会」(外国為替資金特別会計)の剰余金の活用に言及した。円安進行で“ホクホク”になった外為特金からの一般予算歳入などを念頭に置いているのかもしれない。しかし、剰余金の一部は防衛力強化に活用されることが決まっているし、何より10兆円もの減収を穴埋めするのは難しく、恒久財源にはならないと指摘されている。
なぜ今回の消費税減税は、これほど問題が噴出しているのか。高市首相の方針がかなり強引な印象を残すのは一体なぜなのか。
「2年後には私が責任を持って、確実に税率を元に戻してまいります」発言の背景
高市首相は27年4月から、中低所得層の負担軽減のために飲食料品の消費税率を2年に限って、8%から1%に引き下げると表明した。現場の事務負担はあるが、技術的に対応は可能と政府は判断した。
それに続く27年6月からは、所得に連動したきめ細かな給付を先行導入するという。そして29年4月には、所得に連動したきめ細かな給付を、本格導入する方針だ。そのタイミングで、食料品消費税率を8%に戻す。所得連動の給付本格導入までのつなぎとして、食料品消費税率を引き下げる。これが消費税引き下げの大枠である。
まず、1%への引き下げの要因としては、スーパーマーケットなど小売業界の現場への負担配慮があった。税率をゼロにする場合、小売企業では最大10カ月から1年程度の準備期間が必要になるといわれている。0%が免税や非課税なのか、あるいは税率0%なのか、システムのプログラムを大幅に改修する負担は重いという。
一方、1%の場合、改修は6カ月程度で済むようだ。システム切り替えに必要な時間を抑えるという点で、政府は1%を選択した。
システム改修費用は1社当たり数百万円、大手では1億円弱に達するとみられる(政府調査など)。こうしたコストは、29年に1%から8%に戻す際にも発生する。数年後の人件費やシステム運用コストの増加を考えると、引き上げ時のコストはより増えそうだ。
また、29年に1%から8%へ税率を戻すことについて、首相は「財政の持続可能性」を実現して、「市場の信認」を確保する意図があると説明した。「2年後には私が責任を持って、確実に税率を元に戻してまいります」と発言した。
ただし現時点では、8%へ戻す法制度は明確ではない。技術論として税率の引き下げは可能であっても、2年の時限措置と断言できるかどうかも明確ではない。そもそも、2年後に高市首相がその地位にいるかどうかも不確定である。
なぜ異論や反発がこれほど大きい?引き下げ効果と財源に疑問の声多数
今回の引き下げについて、国民会議での議論はまとまらなかった。有権者をはじめ、自民党内や野党からも懸念や反対が出た。そうした状況下、首相の方針はかなり強引な印象を残した。「首相は財政悪化の問題を楽観視している」との見方も増えたようだ。
首相の頭の中では、消費税率を引き下げると、物価上昇に歯止めがかかるとの考えがあるのかもしれない。ただ、原材料価格が上昇する中で、インフレの勢いをそぐのは容易ではない。税率引き下げの効果がどれほど顕在化するかは、専門家の間でも難しい議論になっている。
来春、すぐに個人消費が盛り上がり、景気が拡大するとは考えにくい。むしろ今回の税率引き下げが、将来世代へ負担を先送りする懸念を高めるとの指摘も多い。年金、医療、介護、子育ての不安が高まる結果として、中長期的には消費者心理を圧迫する恐れは高い。
わが国の社会福祉制度は国際的に「中福祉・低負担」といわれている。少子高齢化は想定よりも速いスピードで進行している。制度の持続性を高めるためには、財源として消費税率を引き上げ、給付と負担のバランスを取るべきと指摘する経済の専門家は多い。
今回の減税措置は、そうした指摘に逆行する。2年間で約10兆円も税収が減るのに、財源を明示していない。首相は、現時点で確定していない項目を当てにしている。外為特会の剰余金の活用、独立行政法人などからの国庫納付金など「税外収入」をかき集めて、どうにかするとの見解のようだ。
現時点で確立した財源がなく、減税を実施する――。財政健全化の観点では、やや大ざっぱな措置にみえてしまう。首相は、責任ある積極財政を掲げるものの具体的にどのように責任を持つのか分かりにくい。
高市首相は円安への配慮が見られない為替介入は時間稼ぎに過ぎない
懸念は金融市場の反応だ。7月30日の海外時間、外国為替市場ではさらなる円安進行を見込んだ投資家のドル買い・円売りが膨らんでいた。その直後、日本銀行と米財務省による28年ぶりとなる円買い・ドル売りの協調介入が実施された。
消費税率引き下げで財政悪化懸念が高まるのをけん制する狙いもあったといわれている。ただし、為替介入によって一時的に円売り圧力は収まるだろうが、それは時間稼ぎに過ぎないとの見方は多い。
6月に出した「骨太の方針」原案にも共通するが、高市政策は財政悪化、円安がわが国にもたらす影響への配慮があまり見られない。経済の専門家が、首相の積極的な財政拡張策や円安歓迎の政策方針に懸念を表明しているにもかかわらず、首相がほとんど耳を傾けないスタンスを懸念しているようだ。
わが国は今後、国債や地方債発行に頼った景気刺激策、社会保障運営を修正すべく、高齢者の負担増、消費税率の引き上げなどが必要になる可能性は高いだろう。現政権は、それを意図的に先送りしているようにみえる。
問題の先送りは、財政悪化懸念を一段と高めることになる。そればかりではない、財政悪化リスクの高まりは、円売りの加速要因にもなる。
また、日銀の政策対応が遅れると、金融政策の正常化はさらに遅延することも考えられる。物価上昇に対して金融政策が後手に回れば、物価の安定を実現するのは難しい。
円安がさらに進むと、輸入物価はさらに押し上げられ、国内のインフレは高まると懸念される。財政悪化を反映した悪い金利上昇も加わることで、国内の金利も上昇する。これは、個人消費や企業の設備投資、国債費増加による財政運営にネガティブな影響だ。
そうなると、日本国債、日本株、円をセットで売りに回る投資家は増えるだろう(トリプル安の発生)。状況次第では、政策リスクを反映した日本売りが本格化し、金融市場の混乱につながることが想定される。
主要国の経済政策を振り返ると、「財源なき減税」が金融市場の混乱につながったケースがある。22年の英トラスショックはまさにそうだった。今年7月、英バーナム首相が、財政拡張派の人物を財務大臣に指名した後に、英国債が売られたこともあった。
今後、円安進行や財政悪化のリスクの高まりで、わが国がトラスショックのような状況に追い込まれないことを願うばかりだ。その状況を避けるためにも、わが国の経済政策を冷静に見直すことが重要だ。


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